大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)5493号・昭51年(ワ)5571号・昭52年(ワ)4952号 判決
A 甲事件
第一 被告の妨訴抗弁について
もともと被告が本件被告装置(ヤーンクリアラ)の製造販売を始めたのは旧ライセンス契約(昭和三八年五月一五日原告をライセンサー、被告をライセンシーとして締結され、同年一〇月二二日発効し、有効期間を右発効日から一〇年間とするもので、これにより被告は原告から直接被告装置等の製造販売の許諾をえていた。)に基くものであつたところ、右契約一五条には被告主張(B第二1)のような仲裁約定が存したことは当事者間に争いがない。
しかし、その後に成立した本件ライセンス契約(昭和四九年六月二八日原告をライセンサー、日本ウスターをライセンシーとして締結され、同年一二月二七日発効したもの)に関する当事者間に争いない事実と後記第二a4一(2)のとおり証拠によつて認められる両契約締結の経緯を総合すると、原、被告は、右新契約締結のさい、被告が本件妨訴抗弁で援用する旧ライセンス契約を本件ライセンス契約の発効とともに名実ともにすべての条項につき失効させ、爾後における原被告間の本件被告装置等製造販売等にかかる法律関係は挙げて新らたな本件ライセンス契約によるべきことを当然のこととして暗黙のうちに合意したものと解するのが相当である(被告と日本ウスターの代表者がともに川口久次であることも参照)。のみならず、前掲の事実関係によると、甲事件に関する紛争は「旧ライセンス契約に関連し、もしくはその違反に関連して」(旧ライセンス契約一五条の文言)生起したものというよりもむしろその後締結された本件ライセンス契約に関連して生起したものと解される。このことは、現に被告自身も甲事件における実体上の抗弁としてはかえつて本件ライセンス契約を根拠として被告装置の実施権を主張している点からしても明らかである。
もつとも、この種の仲裁約定は、特段の事情なきかぎり、約定の性質上、たとえ右約定を含む契約が終了してもこれと同時に失効すると考えるのは相当でない。当該契約にかかる紛争に直接関連して終了したような場合には仲裁約定の文言如何にかかわらず当然これが適用されるべきである。しかし、甲事件の紛争については別途前示のような暗黙の合意が存したのであるからもはや右のような原則的適用は認め難いし、また甲事件の紛争が旧ライセンス契約に直接関連したものでないことも前示のとおりである。
原告が旧ライセンス契約の期間満了後本件ライセンス契約締結発効までの間被告の被告装置製造販売を事実上黙認していたことも前記の説示判断を左右するものではない。
そうすると、被告の妨訴抗弁は理由がない。
第二 本案について
a 差止請求
1 原告が別紙権利目録(1)記載の甲特許権を有していることは当事者間に争いがない(なお、乙実用新案権は原告の主張自体によつてもすでに昭和五四年一〇月二二日存続期間の満了によつて終了していることが明らかであるから、右権利を根拠とする原告の差止請求は爾余の判断をなすまでもなく失当である。実用新案法一五条一項)。
2 被告が別紙物件目録(一)ないし(四)記載の被告装置(ヤーンクリアラ)を製造販売し、またはそのおそれのあるものであることも当事者間に争いがないかまたは弁論の全趣旨に照らし自白したものとみなされる。被告は、右被告装置の特定は不十分である旨主張しているが採用しない。右各目録における特定の程度はそれが甲特許発明の技術的範囲に属するか否かを検討するに必要かつ十分なものと解される。そして、右各目録によると目録(二)ないし(四)の装置はいずれも目録(一)の装置を改良発展させたものであるが、甲特許発明との関係でその技術構成を検討する限りにおいてはその構成はいずれも同一と評価して差支えないものであることが明らかである(目録(二)以下の各一頁参照)。
3 しかるところ、原告は、被告装置は甲特許発明のクレーム1、2のいずれの技術的範囲にも属する旨主張するので検討するに、成立に争いない甲第二号証によると、甲特許発明の発明的意義は、紡績工程において、糸欠陥を検知する電子的監視装置の測定の場の長さを電気的方法によつて延長させるにさいし、これを中央装置で遠隔調整し、もつて多数の電子的監視装置の測定の場の長さを簡単かつ正確に調整するところにあると認められるところ、いま被告装置の構成をクレーム1、2の構成要件と対比してみるとその結果はすべて原告主張のとおりに解されること(B第一a2二の(1)および(2)。なお、クレームの分説についてはB第一a1三の(1)および(2)参照)、すなわち被告装置はクレーム1の方法発明の技術的範囲に属する方法の実施にのみ使用される装置であり、かつクレーム2の装置発明の技術的範囲に属する装置であることが明らかであり、以上の認定判断を左右する証拠はない。
4 そこで、次に被告の抗弁等(B第三b1)について検討する。
一 本件ライセンス契約に基く主張について
(1) 原告と日本ウスター間に原告が先行自白しているような本件ライセンス契約が存したことは当事者間に争いがない(B第一e1二)。そして、右事実によると、被告は右契約のライセンシー日本ウスターの下請業者として原告から本件被告装置等の製造販売を許諾されていたことが明らかである。
(2) しかるところ、原告は、右契約はすでに終了している旨主張するので検討するに、成立に争いない甲第五ないし第八号証、原本の存在および成立に争いのない第一四ないし第一七号証および(中略)弁論の全趣旨を総合すると、前記当事者間に争いない本件ライセンス契約成立の経過は原告主張(B第一e1一)のとおりであり、またその後の原告と被告および日本ウスター間の日本ウスター休眠問題、台湾代理店問題に関する紛争経過もすべて原告主張(B第一e2一ないし四。ただし、右四のうち甲第一八号証に関する部分および法律上の主張に関する部分を除く)のとおりであることが認められ、右認定事実に反する前掲被告会社代表者川口久次の供述部分は前掲各証拠に照らし措信せず、他に右認定事実を左右する証拠はない。
右認定事実によると、原告と日本ウスター間の本件ライセンス契約は、原告がるる述べる他の終了原因について判断するまでもなく、おそくとも昭和五〇年一〇月九日頃日本ウスターのかねてからの契約四条違反(台湾代理権問題に関する原告の指名権無視の違反行為)を原因として契約一九条により終了したものと解される(甲第一七号証による解除効)。
そうすると、被告の本件ライセンス契約の有効存続を前提とする前記主張は失当である。
(3) 被告は、右契約一九条により本件契約を終了させる原告の行為は信義則に反し権利の濫用である旨主張しているが、本件に顕出された全証拠によつても右主張を肯認することは困難である。もともと、ライセンスビジネスを行うような企業は利潤追求を唯一の目的とするものであるから、ライセンス契約当事者は最も冷静に利害を打算して行動することが許されるべきであつて、企業のする法律行為について被告主張のような一般条項を適用することは極めて例外的な場合でなければならない。このような企業活動には法の後見的作用は不要であり、むしろ契約自由の原則(本件に則していえば解約自由の原則)こそ尊重されるべきである。前記認定事実によると、本件紛争の発端はむしろ日本ウスター側の不信義(オイルシヨツク等外的要因もあつたにせよ、原告の十分な諒解を得ることなく日本ウスターを休眠状態として、本件ライセンス契約における基本的な当事者関係――原告がライセンサー、日本ウスターがライセンシー、被告がその下請である関係――を無視した点)にあり、また契約終了の直接原因となつた台湾代理店問題も、日本ウスター、被告側が契約の明文に反する所為を承知のうえで敢えてした節がうかがわれるところ、右の問題はライセンサーである原告側にとつてはライセンス契約の根幹にかかわる重要問題であつて到底黙視できないものであつたこと原告主張のとおりであることが明らかである。
二 余後効の主張(契約終了後も在庫品は処分自由であるとの主張)について
右の主張については、本件口頭弁論終結当時はたして被告側に被告所論のような前記契約終了時点にすでに在庫中の本件被告製品が存しているのか、またその数量等についてこれを肯認するに足る確証がないから、所論の抗弁はその前提事実を欠くものといわなければならない。
のみならず、被告の余後効に関する主張は少くとも本件については理由がないこと明らかである。すなわち、本件ライセンス契約は、原告主張(B第四b)のとおり契約が終了すると日本ウスター(したがつて、その下請業者である被告)は特許を使用すること(すなわち被告製品等の製造販売により原告の特許権を実施する行為)を直ちに停止すべきことが明文をもつて約されている場合であり(契約二〇条。前掲甲第八号証)、かつ、このような場合にみだりに一般条項ないし条理をもつて実質上右約定を無視するような解釈を施すことが相当でないことは先に一(3)で説示したとおりである(成立に争いない甲第二〇号証、第二三号証の一、二も参照。なお、前掲甲第八号証によると本件ライセンス契約一七条においては本契約はスイス国法に準拠して解釈すべき旨が定められていること被告主張のとおりであるところ、被告は右約定に鑑み、所論においてスイス、西ドイツ学者の学説を援用しているところがある。しかし、右約定は特段当裁判所がスイス国またはこれに準ずる国で行われている学説に従うべきことを定めているわけでないことはいうまでもない。また、被告主張のような所論が彼の国の定説であると認めうる証拠もない。)。
ことに、本件においては、前掲乙事件被告芝盛久本人尋問の結果によると、原告は本件ライセンス契約終了後の昭和五一年一月から九月頃にかけて被告との間で被告側在庫品の処置について再三にわたり交渉をしており、そのさいの原告側の提案も、原告側が一定量買上げ引き取る、被告側の新らたな注文は原告側で引受けその利益の一定額は被告側に支払う等であつてこの種のケースとしては相応に合理性あるものであり、必らずしも一方的なものとは認められなかつたが最終的には被告側がこれを拒否したことが認められる点にも想到すべきである。
そうすると、被告の余後効に関する主張も失当である。
5 してみると、被告が本件被告装置(ヤーンクリアラ)を業として製造販売する行為は甲特許権を侵害する行為といわなければならない。
b 損害賠償請求と予備的不当利得返還請求
1 被告が昭和五〇年一一月から同五四年二月までの間に被告装置を業として製造販売したことは当事者間に争いがなく、右行為が原告の甲特許権を侵害する違法行為であることおよび被告の主張する違法性阻却事由がすべて認められないことは先に説示したとおりである。また、被告は右違法行為につき過失があつたと推定される(特許法一〇三条)。
そうすると、被告は右違法行為によつて原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。
2 しかるに、被告は右損害賠償義務について民法七二四条所定の三年の短期消滅時効を援用するところ、一件記録によると、右被告の主張は理由があること明らかである。したがつて、被告は原告の主張する前示損害のうち昭和五一年七月一九日以降生じた分のみ賠償すれば足りる。
3 そこで、右の範囲で原告の蒙つた損害額について検討する。
まず、原告は本件につき特許法一〇二条一項を援用し被告が前記違法行為によつて得た利益の額が原告の受けた損害額と推定される旨主張している。
しかし、右法条項は被侵害特許権者(または専用実施権者)が自ら当該特許発明を実施している場合にのみ適用されると解するのが相当であるところ(右の規定は侵害行為者の利益額を即権利者の受けた損害と推定するとしているのであつて、このことからすると、ここにいう損害とは権利者において侵害者が侵害行為により得ている利益と対比され得るような同種同質の利益を現実に失つた場合における損害、いいかえれば権利者が現に当該特許を実施して利益を亨受している場合における財産上の逸失利益相当損害をいうものと解される。また、もともと不実施特許権者は他に実施を許諾して得るであろう実施料以上に利益をうると考えることは経験則にも反し相当でない。そして、かりに右のような事情を推定を覆えす事情と解しても結果は同じである。)、特許法二条三項一、二号に照らすと、本件原告は甲特許発明を実施してきた者とは認め難い。すなわち、前掲乙事件被告会社代表者兼被告芝盛久本人尋問の結果および当事者双方の弁論の全趣旨によると原告がスイス国において甲特許発明のクレーム1の方法を使用し、クレーム2に該当する装置を製造販売展示してきたことは容易にこれを認めることができるが、原告が本邦内において右の所為に及んだと認めるに足る証拠はない。かえつて、前掲証拠によると、我が国においては乙事件被告会社が原告の本邦外で製造した実施品を輸入し販売してきたものであることが認められる。
はたしてそうだとすると、原告の前記推定規定による主張は失当で、原告は被告に対し実施料相当額の範囲内でのみ損害賠償請求ができるといわなければならない(特許法一〇二条二項)。そして、前掲甲第八号証によると本件ライセンス契約(八条)では本件被告装置の実施料を売上高の三パーセントと定めていたことが認められる。
4 ところで、いま原告の蒙つた損害額算出につきさらに必要な要素である前記消滅時効にかからない期間中の販売数量、販売代金額を検討する前に、便宜原告の不当利得返還請求(予備的請求)の当否について検討するに、原告の右請求は損害金請求と同様に得べかりし実施料相当額を被告の不当利得とする範囲で理由があるが、これを超える額については失当である(原告は被告の得た利益額を即不当利得額であると主張しているところ、いま本件で顕出された証拠を検討すると被告の得た利得とその額は一定の限度ではあるがこれを肯認することができるとしても、原告の蒙つた損失の存在とその額およびその利得との因果関係の存在については到底これを認めることのできる証拠は見当らない――ことに、本件では原告が何ら本邦内で甲、乙権利を実施しているものでない点参照――。そして、この帰結は本件の損害賠償請求につき特許法一〇二条一項の推定規定を適用しえないと解することとも整合するものということができる。けだし、右規定は原告のため原告の「損失」と同質と考えられる「損害」額の立証の困難さを避けるための規定であると解されるところ、右規定を適用できない原告について、結果としてこれを適用したと同じ額の不当利得返還請求を認めることは右法条不適用の趣旨を実質上没却し、条理に適わないこととなると考えられるからである。)。
5 以上のとおりであるから、以下、消滅時効にかかつていない期間の損害金とかかつている期間の不当利得金算出のため引き続き全期間を通じての被告の被告装置販売量と売上高とを検討するに、別紙利益一覧表(1)のAおよびBを比較して明らかなとおり、販売量が合計四万三〇五七台であることは当事者間に争いがないが、販売単価については争いが存する。しかし、原告主張の単価を裏付けるに足る確証がないので(甲第二一号証の一ないし三は昭和五四年二月度の製造原価を示す棚卸明細書であり、同第二二号証――乙第九号証の二と同じ――、乙第七ないし第一〇号証の各一、二も被告会社の総売上額を示す貸借対照表、損益計算書であつて被告装置等個々の商品の売上額に関するものではない。)、結局、売上額は低い被告主張の範囲でこれを認めるほかない。
以上の認定判断によると、前記全期間における原告の得べかりし実施料は被告主張のとおり合計三三八六万五七五七円となることが明らかである(別紙利益一覧表(1)のB参照)。
そして、右損害金および損失金額については、いまかりに乙実用新案権を被侵害権利として算出してもこれを上廻ることがないこと明らかである。
6 はたしてそうだとすると、原告の損害金、不当利得金請求は金三三八六万五七五七円の限度で理由があるがその余は失当である。
第三 結論
よつて、原告の甲事件における請求は主文1、2項同旨の差止請求および損害金、不当利得金三三八六万五七五七円とこれに対するいずれも右支払義務発生後であること明らかな昭和五四年七月二一日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金(損害金部分)、利息金(不当利得金部分)の支払請求部分について理由があるがその余は失当である
B 乙事件
a 差止請求について
1 原告と被告会社とが競争関係にあることは当事者間に争いがない。
しかし、その余の被告らが個人として原告と競争関係にあるとの主張立証はない。かえつて、前掲被告芝盛久本人尋問の結果と弁論の全趣旨によると、これらの被告らが仮りに原告主張のような流布陳述行為を行つたとしてもそれは被告会社の機関または従業員として行つたものであつて、右被告らが右以外に個人として原告と競争関係にたつ営業を行い、その立場で前記のような所為をしたことはないことが認められる(なお、右のうち、右被告らの被告会社における地位については当事者間にも争いがない。)。
そうすると、原告の被告会社を除くその余の被告らに対する本件差止請求は右の点ですでに失当である。
2 被告会社が原告の請求原因3の(イ)(ロ)のような事実を流布陳述をしたことは当事者間に争いがない。しかし、これらの事実(ただし、(イ)のうち乙実用新案権に関する部分を除く)が真実であつて虚偽でないことは甲事件に関する理由説示でるる述べたとおりである。また、右(イ)のうち乙実用新案権に関する部分については、成立に争いない甲第四号証によると乙実用新案権の考案的意義は、紡績工程での二重糸を、その糸の太さの変化によつて検出し、切断機構を作動せしめるにさいし、切断後、正常な糸を再び測定ヘツドに挿入するときに、右の切断機構を阻止するよう構成し、もつて二重糸を鋭敏に検出除去するところにあると認められるところ、いま別紙物件目録(二)(三)記載の装置の構成を乙実用新案のクレームの構成要件に対比してみると、その結果はすべて原告主張のとおりに解されること(そのうち、右装置が構成要件の(1)を充足することは原告も甲事件被告としてこれを認め争つていない)、すなわち右装置は乙実用新案の技術的範囲に属することが明らかであり、かつ原告には乙実用新案権の実施について権利侵害性(違法性)を阻却する事由のないことは甲事件について理由を説示したと同様である。したがつて、前記部分に関する事実もまた真実であつて虚偽でないことが明らかである。
次に、被告会社が同3の(ハ)のような事実を流布陳述したことを裏付けるに足る確証はない。証人井元達雄、同西前敏男、同藤川清市の各証言および原告代表者川口久次本人尋問の結果によつても右事実を認めることは困難である。右供述中には、被告会社側が「原告が別紙物件目録(六)記載の装置(クラシフオルト)を製造販売することは甲事件原告の有する『変じ得る大きさで、まばらに生じる現象、特に紡績製品にまばらに生じる疵を算定し且分類するための方法』に関する特許権――特公昭三八―一五一九〇、乙第五号証、すでに昭和五三年八月一九日期間終了により消滅――を侵害する。」旨を原告の顧客に陳述流布したことをうかがわせる部分もあるが、被告会社販売にかかる別紙権利目録(4)の装置(クラシマツト)との関係で不正競争防止法一条一項一号に違反するとの事実を陳述流布したことをうかがわせる供述はない。
また、同3の(二)の事実については被告会社がはたして原告主張のとおりの言辞を用いたかどうか疑念なしとしない(被告らの答弁第二aにおける弁疏内容参照)。のみならず、前示のとおり(イ)(ロ)のような内容の事実が真実であることに想到するとこれに付帯する事項と解される(二)のような事実は、たとえ権利侵害品の修理行為自体が正確には権利の実施行為すなわち侵害行為といえないとしても、(イ)(ロ)の事実が真実である関係上特にこれだけ独立して不正競争防止法一条一項六号所定の原告の「営業上ノ信用ヲ害スル」事実と解することは相当でない(一般に、営業に関連して多少の誇大な事実を述べることはいわゆるセールスマンズストーリイとして自由競争上許容され、あえてこれを不法行為法上の違法行為とまでは解していない点も参照)。
3 そうすると、原告の被告会社に対する本件差止請求も爾余の点を判断するまでもなく失当である。
b 損害賠償請求について
被告らに原告主張のような不正競争防止法一条一項六号所定の不正競争行為が認められないことaで説示したとおりであるから、原告の本件損害賠償請求に理由がないことは爾余の点について判断するまでもなく明らかである。
c 結論
よつて、原告の乙事件における請求はすべて失当である。
C 丙事件
第一 被告の妨訴抗弁について
成立に争いない甲第八、第一三号証によると、被告が丙事件における妨訴抗弁の根拠とする旧ライセンス契約(甲第七号証)では本件A(1)(2)、B装置は許諾対象品とされておらず、かえつて右各装置は原告主張(D第一d3)の別途ライセンス契約(甲第一三号証)において許諾品目とされていることが認められる(被告も本案の主張においては右事実を認めている。)。
そうすると、旧ライセンス契約中の仲裁条項の存在を前提とする丙事件における妨訴抗弁は爾余の判断をなすまでもなく失当である。
かりに被告の主張の真意が別途ライセンス契約を根拠とするものであるとしても(前掲甲第一三号証によると別途ライセンス契約にも旧ライセンス契約と同じ仲裁条項の存したことが認められる。)、右別途ライセンス契約が本件ライセンス契約の成立発効とともに合意解約されたことは被告も自認するところであり、かつもともと丙事件は右別途ライセンス契約の仲裁条項を適用すべき紛争でないことはすでにAの第一で甲事件に関し旧ライセンス契約について述べたと同様の理由により明らかである。
そうすると、被告の妨訴抗弁は理由がない。
第二 本案について
a 差止請求の一
1 原告が別紙権利目録(3)記載の丙特許権を有していることは当事者間に争いがない。
2 被告が別紙物件目録(五)のA(1)、(2)記載の装置を業として製造販売し、またはそのおそれのあるものであることは弁論の全趣旨に照らし被告の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなす(被告がそのことを当然の前提として種々ライセンス契約に基く主張をしている点参照)。
3 しかるところ、原告は右A(1)、(2)の装置は丙特許発明のクレーム1、2のいずれの技術的範囲にも属する旨主張するので検討する。
(クレーム1の方法発明について)
成立に争いない甲第一一号証の一によると、丙特許発明の発明的意義は、繊維材料を狭隘部を持つ測定トランペツトを通して引つ張り、その物質断面をそのさいに生じる空気圧を計ることにより測定し、もつて従来の電気容量測定、光学測定、放射線吸収測定の方法では得られない安定した測定を行うところにあると認められるところ、いま右A(1)(2)の装置の構成をクレーム1の構成要件と対比してみると、その結果はすべて原告主張のとおりに解されること(D第一a2二の(1)。なお、クレーム1の分説についてはD第一a1三の(1)参照)、すなわち、A(1)(2)の装置はクレーム1の方法発明の技術的範囲に属する方法の実施にのみ使用される装置であることが明らかであり、以上の認定判断を左右する証拠はない。
(クレーム2の装置発明について)
したがつて、クレーム2の装置発明については判断を加える必要をみない(なお、A(1)(2)の装置がクレーム2の技術的範囲に属するかどうかについては疑義がないではない。すなわち、その余の構成は別として、右装置がはたしてクレーム2にいう「拡大室」を具備しているかどうか必らずしも明らかでない。前掲甲第一一号証の一――丙特許公報――の発明の詳細な説明欄をみても「拡大室」の技術的意味についての記載が見当らないが、その1、3、4図の記載とその説明からすると、ここに「拡大室」とは絞り部の一部が繊維材料の流路から外れて拡大された構造になつている部分であつて、拡大室の内部には、繊維材料は流通せず、その断面の圧縮によつて絞り出された空気のみが流通または滞留するようになつているものをいうと解されるところ、本件装置A(1)(2)がそのような構成部分を有しているのか図面によつても必らずしも明らかでない。)。
4 次に被告の抗弁等(D第三b1、2。本件ライセンス契約に基く主張と余後効に関する主張)が失当であることはすでにA甲事件第二a4でるる説示したとおりである。
5 してみると、被告が本件A(1)(2)の装置を業として製造販売する行為は丙特許権(ただし、クレーム1)を侵害する行為とみなされる(間接侵害。特許法一〇一条二号)。
b 差止請求の二
1 原告が別紙権利目録(5)記載の戊特許権を有していることは当事者間に争いがない。
2 被告が別紙物件目録(五)のB記載の装置を業として製造販売し、またはそのおそれのあるものであることは弁論の全趣旨に照らし被告の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなす(前記a2の末尾括弧内の説示事項参照)。
3 しかるところ、原告は右B装置は戊特許発明のクレーム1、2のいずれの技術的範囲にも属する旨主張するので検討する。
(クレーム1の方法発明について)
成立に争いない甲第一一号証の二によると、戊特許発明の発明的意義は、丙特許発明の改良に係り、測定用ノズルの開口部に沈積した繊維くずを圧力波動を短時間加えて吹き除き、もつて清掃のさいに圧力測定が短い期間しか中断しないようにしたところにあると認められるところ、いま右B装置の構成をクレーム1の構成要件と対比してみると、その結果はすべて原告主張のとおりに解されること(D第一b2二の(1)。なお、クレーム1の分説についてはD第一b1三の(1)参照)、すなわち、B装置はクレーム1の方法発明の技術的範囲に属する方法の実施にのみ使用される装置であることが明らかであり、以上の認定判断を左右する証拠はない。
(クレーム2の装置発明について)
したがつて、クレーム2の装置発明について判断を加える必要がないこと丙特許発明のクレーム2の場合と同様である。
4 次に被告の抗弁等が失当であることも前記a4で説示したとおりである。
5 してみると、被告が本件Bの装置を業として製造販売する行為は戊特許権(ただし、クレーム1)を侵害する行為とみなされる(間接侵害。特許法一〇一条二号)。
c 損害賠償請求
1 被告が本件A(1)(2)、B装置(A(1)とBとを備えた装置またはA(2)とBとを備えた装置のことで、以下AB装置という)を業として製造販売したこと、右行為が原告の丙戊各特許権(いずれもそのクレーム1)を侵害する違法行為であること、および被告の主張する違法性阻却事由がすべて認められないことは先に説示したとおりである。また、被告は右違法行為につき過失があつたと推定される(特許法一〇三条)。
そうすると、被告は右違法行為によつて原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。
2 そこで、原告の蒙つた損害額について検討する。
まず、原告は丙事件についても甲事件と同様に特許法一〇二条一項所定の損害額推定条項の適用を主張している。しかし、右主張を採用し難いことはすでにA第二b3で説示したとおりである。結局、原告は実施料相当額の範囲内でのみ損害賠償請求ができる(特許法一〇二条二項)。そして、前掲甲第八号証によると本件ライセンス契約(八条)では本件AB装置の実施料を売上高の八パーセントと定めていたことが認められる。
次に、被告のAB装置販売量が昭和五三年一月から同五二年一二月まで合計一二台であつたことは当事者間に争いがない(別紙利益一覧表(2)のAとB参照)。ただ、販売単価については争いが存するが、原告主張の単価を裏付けるに足る確証がないこと甲事件の場合と同様であるから、結局、売上額は低い被告主張の範囲でこれを認めるほかない。
以上の認定判断によると、原告の得べかりし実施料は被告主張のとおり合計六〇万三八四〇円となることが明らかで、右同額が原告の蒙つた損害といわなければならない(別紙利益一覧表(2)のB参照)。
第三 結論
よつて、原告の丙事件における請求は主文6、7項同旨の差止請求および損害金六〇万三八四〇円とこれに対する不法行為後であること明らかな昭和五四年七月二一日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払請求部分は理由があるがその余は失当である。
D 結論
以上のとおりであるから、本件甲、乙、丙各事件は上来説示の範囲でこれを認容し、その余を棄却する。
〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
第一 原告の請求原因等
a 差止請求の一
1 原告の甲特許権
一 原告は別紙権利目録(1)記載の甲特許権を有している(クレーム1は方法特許、同2は装置特許)。
二 甲特許の発明的意義は次のような点にある。すなわち、
紡績工業においては、製造する糸の太さの変化を監視し、糸の欠陥を自動的に検出して切除する装置を取りつけている。どのような欠陥を有する糸を不適当として取り除くべきかは、糸の使用目的によつて異る。糸の欠陥を検出する方法の一つとして、糸をある一定の長さをもつた場で測定するという方法がある。この場合、糸の太さは、測定の場の長さにわたつて平均された値として測定されることになる。すなわち、測定の場の長さを短くすれば、糸の太く短いこぶから発生する信号は大きく、細く長いこぶから発生する信号は小さくなるのに対し、測定の場の長さをある程度長くすれば、細く長いこぶから発生する信号の方が大きくなる。したがつて、糸の使用目的に応じて、異なつた種類の欠陥を除去しようとするには、右の測定の場の長さを調節すればよいわけであるが、これを機械的に調節すると、装置が複雑になりコストも増大することになる。そこで、右の測定の場の長さを電気的な操作によつて引き伸ばしたと回じ効果を出すように、監視装置に所属する特定の回路の電気的機能を調節する方法が従来から考えられていた。
ところが、紡績工場においては、各種の糸を製造しているので、糸の用途に合わせて巻糸機に取りつけた監視装置の測定の場の長さを適宜調整する必要があるが、一つの巻糸機には多数の巻取ユニツトが備えられており、監視装置は、各ユニツトに一つずつ取りつけてあるので、糸の種類をかえる都度、多数の監視装置を同じように調整しなければならない。しかし、多数の監視装置を別々に調節することは非常な手数がかゝるのみならず、調節の不正確さも免れえないので、これを一個所で制御し、正確かつ統一した調節を行なう方法および装置の必要が生ずる。本件特許発明は、かゝる糸の測定の場の長さを調節する効果を電気的に生じさせる操作を、中央電源において、正確かつ迅速に行なう方法および装置に関するものである。
三 そして、甲特許発明の構成要件を分説するとそれぞれ次のようになる(説明の便宜上、記載順はクレーム文言と不同)。
(1) クレーム1
(イ) 中央給電装置と、これから必要な、き電電圧を供給される多数の電子的監視装置とがあり、
(ロ) 電子的監視装置の測定部材の事実上の測定の場の長さを電気的に遠隔調整する方法であつて、その特徴は、
(ハ) 各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器における周波数レスポンスを中央供電装置において発生されて予定の値の間で調整され得る制御信号によつて調整すること
にある。
(2) クレーム2
(イ) 多数の監視装置に共通の給電装置に設けられて予定の限界内で任意に調整され得る制御電圧を供給する制御電圧源を有すること
(ロ) 右の制御電圧をすべての所属の監視装置に送るための制御線の如き手段を有すること
(ハ) 各監視装置に所属して測定部材の振幅特性に作用するRCユニツトを有すること
(ニ) 各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器における周波数レスポンスを、中央供電装置において発生されて予定の値の間で調整され得る制御信号によつて調整するようになつている装置であること
(ホ) 中央給電装置から必要なき電電圧を供給される多数の電子的監視装置における測定部材の事実上の測定の場の長さを電気的に遠隔調整するようになつている装置であること。
2 被告の甲特許権侵害行為
一 被告は別紙物件目録(一)ないし(四)記載の装置(ヤーンクリアラ装置UAM―B2、C1、C3、W3)を業として製造販売している。
二 右(一)ないし(四)の各装置(ヤーンクリアラ装置。以下、この項では被告装置と総称することがある。)はいずれも甲特許発明の技術的範囲に属する。すなわち、
(1) クレーム1との対比
(イ) 「中央給電装置と、これから必要なき電電圧を供給される多数の電子的監視装置」
被告装置のうちコントロールユニツトは各電子的監視装置(アンプユニツト及び測定ヘツドから成る)に対する電力(き電電圧)の供給をコントロールしているものであるから、前記にいう「中央給電装置」である。
また測定ヘツドとアンプユニツトとの組合せが「電子的監視装置」を形成している。
(ロ) 「電子的監視装置に於ける測定部材の事実上の測定の場の長さを電子的に遠隔調整するための方法」
被告装置においてはコントロールユニツト上にあるつまみ(別紙物件目録(一)記載のB2型式の装置においてはType of Faultつまみ、その他の型式ではReference Lengthつまみ)を回動させることにより多数の電子的監視装置の測定部材の事実上の長さを調整している。すなわち右のつまみを回すことによりコントロールユニツトにおいて制御電圧が変化し、この制御電圧が多数のアンプユニツトに電気的に接続され、これによりいわゆる「電気的」に「遠隔調整」をするようになつている。
(ハ) 「各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器における周波数レスポンスを中央供電装置において発生されて予定の値の間で調整され得る制御信号(Ust)によつて調整すること」前記のようにコントロールユニツトの所定のつまみを回すことにより制御信号の大きさが変わるとB2型においてはこれと接続する多数のアンプユニツト中のダイオードD1に流れる電流が同時に一律に変わり、ダイオードD1の抵抗が変化する。ダイオードD1の抵抗値が変化するとこれに応じて第二のRCユニツトのインピーダンスZ2が変わり、増幅器T4、T5段の周波数レスポンスが変わる。
C1、C3、W3型においては、ダイオードD1の代わりにサーミスタR5を流れる電流が同時に一律に変わりその抵抗値が変化する。サーミスタR5の抵抗値の変化に応じ、R5、C5より成るRCユニツトの時定数が変わり、これが前記RCユニツトを含むアンプユニツト全体の周波数レスポンスを変える。
また前記コントロールユニツトのつまみにより回動し得る範囲は一定の範囲に留まるように設定されており、これにより前記制御信号は「予定の値の間で」のみ調整され得るようになつている。
そして被告装置の前記コントロールユニツト、アンプユニツト、測定ヘツドユニツトの組合わせは前記に述べた方法にのみ用い得る装置である。
(2) クレーム2との対比
(イ) 「多数の監視装置に共通の給電装置に設けられて予定の限界内で任意に調整され得る制御電圧を供給する制御電圧源」
「多数の監視装置に共通の給電装置に設けられた……制御電圧源」は、前記コントロールユニツト中の制御電圧調整回路であり、これをつまみによつて調整して制御された電気信号を各監視装置(アンプユニツト)に送る場合、それが「予定の限界内で任意に調整され得る制御電圧を供給する」ことになることはクレーム1に関する説明(ロ)で述べたとおりである。
(ロ) 「この制御電圧をすべての所属の監視装置に送るための制御線の如き手段」
別紙物件目録図面第五及び第一二、第一九及び第二六に示したように接続ケーブル、バスバー、多芯の導線間を連結するコネクターを有し、バスバー上には「所属の監視装置」に含まれるアンプユニツト中の各導線に連結するプラグを有し、制御電圧を各アンプユニツトに送つているので、右の部材はここにいう「制御線の如き手段」に当る。
(ハ) 「各監視装置に所属して、測定部材の振幅特性に作用するRCユニツト」
各監視装置のアンプユニツトには、
(a) B2型の場合ダイオードD1とコンデンサC3、抵抗R3とより構成されるRCユニツト
(b) C1、C3、W3型の場合サーミスタR5とコンデンサC5とより構成されるRCユニツト
がある。
前記(a)の場合はダイオードD1は制御電圧の変化により抵抗値が変化する可変抵抗として作用し、このRCユニツトのインピーダンスを変え、これによつてトランジスタT4、T5より構成される増幅段の周波数レスポンスを調整している。
前記(b)の場合はサーミスタR5は制御電圧の変化により抵抗値が変化する可変抵抗であり、R5、C5より成るRCユニツトの時定数が変わる。これによつて増幅部全体の周波数レスポンスを調整する。
前記によりRCユニツトの時定数変化により測定ユニツトの電極間で検出された糸の断面太さの変化に応じた電気信号の波形が変化する。すなわち前記周波数レスポンスの変化により測定部材の測定の場の長さが実際よりも引伸ばされた長さで測定されていると同じような波形が得られる。この作用はクレーム2にいうRCユニツトの作用と全く同じである。
(ニ) 「各々の電子的監視装置において得られる各々の増幅器における周波数レスポンスを中央供電装置において発生されて予定の値の間で調整され得る制御信号によつて調整するようになつている」
クレーム1に関する説明(ハ)のとおり。
(ホ) 「中央給電装置から必要なき電電圧を供給される多数の電子的監視装置に於ける測定部材の事実上の測定の場の長さを電気的に遠隔調整するための方法を実施するための装置」。
この点もクレーム1に関する説明の(イ)及び(ロ)のとおり。
三 以上のとおりであるから、被告は業として被告装置を製造販売することにより原告の甲特許権を侵害している(クレーム1については間接侵害―特許法一〇一条二号1、2については直接侵害)。
b 差止請求の二
1 原告の乙実用新案権
一 原告は別紙権利目録(2)記載の乙実用新案権を有している。
二 乙考案の意義は次のような点にある。すなわち、乙考案は前記甲特許発明で述べた糸欠陥のうち特に「二重糸」(二本子又はダブルス)と呼ばれる糸欠陥の除去と、ネツプ、スラブ等の太糸とを併列回路で各別に感知する装置に関する考案である。
公知技術として、ネツプ、スラブ(こぶ)等と長い二重子などの欠陥を分けて監視する各別の回路を併列させることは知られていた。しかし特に二重糸は糸が二重になつて長く続いているもので、ネツプ、スラブ等のこぶよりも更に悪質で、製品となつたとき長い線状の欠陥となつて現われるので、その織物全体をカツトせざるをえなくなるような重大な欠陥であるにもかかわらず、その自動監視に種々の技術問題がある。
この二重糸除去の技術課題は、
(1) それが無限に長く続くわりに、限定された測定の場ではこぶのように大きく現われないこと、
(2) しかも通常、電気信号の大きさによつて、糸欠陥を発見するこの種の装置において、電気信号を実際の糸の太さでなく測定の場を通過する糸の太さの変化の大きさとしてとらえるのが一般であるため、
(イ) 測定の場において一本の糸から二重糸に変わるところでプラス一〇〇%の変化
(ロ) 測定の場が空の状態に一本の糸が入つてくる場合にもプラス一〇〇%の変化
(ハ) 空の状態で二重子が入ると二〇〇%の変化
があることになる。そこで一本が二本になつた程度の太さの変化でもとらえられる程度の高感度の電気信号(切断点を低いレベルに置く)では、一本の糸が二重糸に変わるときのみならず、空の状態に正常な糸が入つてくるときも直ちに切断するように監視装置が働くことになる。
以上のような不都合をなくするため、本件考案においては比較的短く太い欠陥を感知する回路に並列して、この二重糸のみを特にコントロールする第2チヤンネルを設定し、この第2チヤンネルは測定の場が空のときは二重子のみをとらえ、正常糸をパスさせ、糸が走行状態に入つたところで正常糸から二重子に変るものだけをとらえるよう電気信号の感度の切換えを自動的に行なうようにしておくものである。これによつて糸欠陥のうちネツプ、スラブ、太糸等の比較的短い糸の欠陥と二重糸のような非常に長い糸欠陥とを分業的に一つの監視装置で監視除去することができるようにしたものである。
三 そして、乙考案の構成要件を分説すると次のようになる。
(1) 糸欠陥、特に二重糸又は太糸に対して電子的ヤーンクリアラ中の切断機構を作動せしめる装置であつて
(2)(イ) 測定ヘツド
(ロ) 増幅器を伴う、第1チヤンネル
(ハ) 第1チヤンネルと並列に接続され、増幅器と積分器を含む第2チヤンネル
(ニ) 両チヤンネルに共通の切断機構の四部より構成され
(3)(イ) 第2チヤンネルには、その限界値を制御する弁別器が含まれており、
(ロ) この入力に測定信号が加わり、出力電圧によつて第二チヤンネルの増幅器の限界値の水準に影響を及ぼす電子的スイツチを制御する装置。
2 被告の乙実用新案権侵害行為
一 被告の製造販売行為については前記a2一のとおり。
二 被告装置は以下に対比するとおり、いずれも乙考案の技術的範囲に属する。すなわち、
(一) 「糸欠陥、特に二重糸または太糸に対して電子的ヤーンクリアラ中の切断機構を作動せしめる装置」
被告装置はその名の示すとおり糸欠陥を電子監視装置によつて発見し、自動的にこれを切断するヤーンクリアラであり、特に二重糸及び太糸に対して作動し得るものである。
(二) 「測定ヘツド、増幅器を伴う、第1チヤンネル、第1チヤンネルと並列に接続され、増幅器と積分器を含む第2チヤンネルおよび両チヤンネルに共通の切断機構の四部より構成され」
(イ) 測定ヘツド
ここにいう測定ヘツドは被告装置の測定ヘツドに含まれる部材中対向する電極とその間に糸を通す測定スロツトと電極に接続する発振回路・測定回路よりなる部分がこれに相当する。
(ロ) 増幅器
ここにいう増幅器はB2型においてはアンプユニツト中の増幅回路のうち、増幅回路A1、スラブチヤンネルS1の増幅段T1を含む増幅部をいう。
C1型においては増幅回路A2、スラブチヤンネルS2の増幅段T1を含む増幅部をいう。C3、W型においては増幅回路A3、スラブチヤンネルS3の増幅段T1を含む増幅部をいう。
第1チヤンネルは前記の測定ヘツドの測定回路につながるスラブチヤンネルの系列がこれに相当する。
(ハ) 第2チヤンネルはダブルスチヤンネル及びランニングヤーンスイツチから成る部分がこれに相当し、B2型においてはダブルスチヤンネルD1、C1型においてはダブルスチヤンネルD2、C3、W型においてはダブルスチヤンネルD3中には増幅器と積分器が含まれている。
(ニ) 右の第1チヤンネル及び第2チヤンネルのそれぞれからスイツチ段T3を経て信号を受けるカツター駆動回路、このカツター駆動回路から信号を受けて欠陥糸を切断するためのカツターまでがここにいう切断機構にあたる。このうちカツターは測定ヘツド中に配置され、カツター駆動回路はアンプユニツト中に配置されている。
(三) 「第2チヤンネルには、その限界値を制御する弁別器が含まれており、この入力に測定信号が加わり、出力電圧によつて第2チヤンネルの増幅器の限界値の水準に影響を及ぼす電子的スイツチを制御する装置」
別紙物件目録図面第六、第一三、第二〇及び第二七に示すランニングヤーンスイツチは、入力に糸の断面太さの変動により生ずる交流信号が加わり、その有無によつて図面第七、第一四、第二一及び第二八の<2>に示すようなトランジスタその他の部材を含む回路が働き、その出力の電圧状態を変えこれによりダイオードD5(図面第七、第一四、第二一、第二八の<2>)の導通か非導通かの状態によつて、シユミツト・トリガーのトランジスタT2のベースのバイアス電圧を変化し、走行糸中の二重糸により生ずる信号に対する限界値か、又は二重糸を測定スロツトに挿入するときの信号に対する限界値かの何れかの水準に切り換える。
したがつて、
(イ) 図面第七、第一四、第二一、第二八の<2>のトランジスタT9及び周辺の部材は乙考案にいう「弁別器」を構成し
(ロ) またダイオードD5及びそれぞれの附随部材は乙考案にいう「電子スイツチ」を構成する。
三 以上のとおりであるから、被告は業として被告装置を製造販売することにより原告の乙実用新案権を侵害している。
c 損害賠償請求
1 被告が原告の甲特許権、乙実用新案権を侵害していることは前記のとおりであるところ、被告の右侵害行為が故意または過失によるものであることは後記のような情況に照らし明らかである。したがつて、被告は原告が右侵害行為によつて蒙つた損害を賠償する義務がある。
2 しかるところ、被告は別紙利益一覧表(1)のA記載のとおり昭和五〇年一一月から同五四年二月までの間に合計四万三〇五七台の被告装置を製造販売し、合計四億六二一九万五三六七円の利益を得ているから、原告の蒙つた損害は右同額と推定される(特許法一〇二条一項、実用新案法二九条一項)。
d 不当利得返還請求
かりに右損害賠償請求のうち昭和五一年七月一八日以前の損害分が被告主張のとおり時効消滅しているとしても、被告は右期間に悪意で右損害金と同額の利得を得、これにより原告は同額の損失を蒙つた。
e 先廻り再抗弁
被告は、かつて原告、日本ウスター株式会社間の技術援助契約(昭和四九年六月二八日締結、同年一二月二七日付日本政府の外資法に基く認可により発効、有効期間発効日から五年間。以下、本件ライセンス契約または単に本件契約という。甲第八号証)に基き、ライセンシー日本ウスターの下請業者として本件被告装置ヤーンクリアラの製造を原告から許諾されていたことがある。
しかし、右ライセンス契約はすでに昭和五〇年九月二日合意解除されている。かりに右合意解除が認められないとしても、原告の日本ウスターに対する解除権行使により前同日または同年一〇月二日に終了している。すなわち、
1 本件ライセンス契約の成立経過と内容
一 成立経過
原告はこれより先昭和三八年五月一五日被告との間で直接のライセンス契約(同年一〇月二三日付日本政府の外資法に基く認可により発効、有効期間発効日から一〇年間。以下、旧ライセンス契約または旧契約という。)を締結し、被告に本件被告装置等の製造販売を許諾していた。そして、右旧契約の有効期間中の原被告間の関係は極めて友好的で、そのため当初一小企業にすぎなかつた被告は、この種繊維産業の各種自動検出装置の世界的名門である原告のライセンシーとして飛躍的な発展を遂げた(なお、この間、原告は被告の要請で被告株式の五〇パーセント取得の形で投資も行つたのであるが、日本政府の指導等により被告会社の運営はすべて日本側に一任し、ただ非常勤役員提供者としての助言を行うにとどめていた。)。
ところが、右旧契約の期間満了に伴う契約更新の交渉段階で、被告側から被告の節税、日本会社の慣行等を理由として別途原告と被告との合弁による販売会社を設立し、新ライセンス契約はこの新設会社と原告との間で締結したいとの申し出があつた(ただし、右提案理由は表向きのもので、被告の真意は被告会社内の労務対策にあつたことが後日判つた。)。
原告はこれに同意し、かくして昭和四八年一一月二八日日本ウスターが設立され被告代表者川口久次がその代表取締役に就任した(株式の七〇パーセントを原告が保有)
本件ライセンス契約はこのようにして昭和四九年六月二八日原告と日本ウスターとの間で締結されるに至つたのである。なお、旧契約終了後ほぼ一年前後の期間原告と被告または日本ウスターとの間が無契約状態になつていたのは、被告または日本ウスター側から本件装置等ライセンス製品の日本国外輸出に関するテリトリ変更、海外代理店等の問題が持ち出され交渉がながびいたためで、その間の被告側の実施行為は原告において事実上黙認していたものである。
二 契約内容
本件ライセンス契約の眼目は前記のとおり海外テリトリ問題であつたが、その他を含めた契約条項の概要は次のようなものであつた(甲第八号証)。
(1) 許諾製品の範囲は一条に記載されているが、その中には本件被告装置すなわちヤーンリアラーUAM―B2、同UAM―C1、同UAM―C3、同UAM―W3を含んでいた(一条の(a))。
(2) 右記製品を製造販売するにつき、原告の有するすべての関連特許の使用が許諾されていた(五条)。
またこれに関連するノウハウも供与され、その使用も認められていた(二条)。
(3) 被告はライセンシーたる日本ウスターの下請として製造を認められることが両者で約定されていた(三条)。
なお、本件ライセンス契約と下請は原告の同意がない限り第三者に譲渡されないこと、特に販売権は一切譲渡してはならないことが約定されていた(二三条)。
(4) ライセンスの対価としてロイヤリテイーを支払うことが合意され、そのうち本件被告装置(ヤーンクリアラ)については販売価格の三%が支払われることとなつていた(八条)。
(5) 販売地域等は次のように約定されていた。
許諾地域は日本を独占製造販売の地域とし(一条および四条)、販売についてはアメリカ合衆国を除く全世界に対し、次の場合に限り非独占的に販売することが認められていた(四条一項一号ないし四号)。
(イ) 外国に存在する日本会社が株式を有する合弁会社への販売。
(ロ) 日本会社が外国に向けて行なうプラント輸出に伴なう場合。
(ハ) 日本会社が技術提携をしている提携先に対し、設備の決定権を日本会社側の技術者が有している場合、その提携先への販売。
(ニ) 日本の繊維機器メーカーの販売装置と組合わされている場合。
これらはすべて日本会社との商談で決定し得る取引に属し(いわば準国内取引)、そのうちの特定のものを列挙したものである。
(6) 海外代理店の指名
前記によりライセンシーが外国向けの許諾製品を販売する場合は、契約両当事者の合意する販売共同代理店を通すこととし、この共同代理店の指名は両者合意で行うが、合意に達しないときは、原告がその決定権を持つこととされた(四条二項)。
(7) 契約の解除
当事者の一方が契約に違反しもしくは自らの義務の履行を怠つた場合には、他方はいつでも契約を解除(取消し)できる。また、かかる違反もしくは不履行が、それに関し一方の当事者による文書の通告があつた後三〇日以内に匡正されざるときはその時をもつて契約は終結される(一九条)。
2 本件ライセンス契約の終了(被告の下請製造販売権喪失)
一 契約終了に至る伏線
昭和四八年暮のオイルシヨツク前後から、繊維業界は急速に不振に落ち入つた。そのため、それまで拡張につぐ拡張を続けてきた被告会社の営業は急速に悪化し始めた。
そこで、その対策として川口は発足早々の日本ウスターの事務所を被告事務所工場(高槻市)に移すとともに(このことは原告も同意)、日本ウスターの在庫品一切を被告に移し、日本ウスターのなすべきライセンス製品の販売をもとどおり被告の名で直接行うようになり、日本ウスターは昭和四九年末頃には早くも事実上休眠状態となつた。そこで、昭和五〇年二月来日した原告の会計担当取締役クルト・ウエーバー博士がこの点を追求したが、川口が一方的に既成事実にしてしまつていた関係上やむなくおそくとも昭和五一年末までには被告か日本ウスターに販売権を返すことを約束させるにとどまつた。このような被告側の所為は日本ウスターの多数株主である原告を無視した背信的行為であるはもとより、本件ライセンス契約における最も基本的条項である当事者条項違反の行為であること明白である。原告が被告に深刻な不信感を抱くようになつたのは当然である。しかし、原告としてはできるだけ事態を穏便に処理するようにしていた。ところが、川口は日本ウスターの休眠を強行した昭和五〇年初め以後その態度を従来と一変し、ことごとく原告側の意思を無視するようになつた。
二 日本ウスター(事実上被告)の契約違反
そして、その後、日本ウスター(事実上被告)は本件ライセンス契約の眼目であつた海外のテリトリ、代理店問題について決定的な契約違反行為を敢えてした(いわゆる台湾代理店問題)。すなわち、原告は日本からの被告輸出品をシイベル・ヘグナー・カンパニーのグループを通じて販売するという建前から、その関連代理店を指名することにしており、台湾についてはユナイテツド・エクスポーターズという代理店を指名していた。これに対し被告は従来から被告が取引していた建台豊公司を固執し、絶対譲歩しないという態度を示し、昭和五〇年初頭原告の警告を無視して台湾において右建台豊を通し、しかも甚だしいダンピングでオリエンタルニツテイングに対するライセンス製品の輸出を強行した(前記契約四条二項参照)。しかし、前示のような不信行為が行われている状況では、原告としては、日本ウスター(事実上被告)のみがコントロールできる代理店による輸出を認めると契約四条一項各号違反の存否をチエツクできないこととなるから、もはやどうしても右違反行為を黙視することができなくなつた。
そこで、原告は昭和五〇年七月七日付その頃到着の書留郵便(甲第一四号証)をもつて日本ウスターに対し台湾について原告の代理店指名権を尊重し、建台豊との取引を直ちに、遅くとも同年一二月末日までに、停止することを要求し、さらに同年八月二二日付その頃到着の書簡(甲第一五号証)をもつて川口に対し、もし日本ウスター側で前記警告を無視し続けるのであれば原告との関係は決定的破綻を招くであろう旨重ねて警告した。
三 合意解約
以上のような経過を経たうえ、昭和五〇年九月一日と二日にわたり原告代表者ウオルター・ヘスと日本ウスター、被告両社の代表者川口久次との会談が大阪ロイヤルホテル会議室で行われた。まず、一日には、ウオルター・ヘスが台湾問題につき前記同年七月七日付書簡のとおり、同年一二月三一日までに原告の契約に基づく代理店決定権を尊重しない場合は、契約違反により、本件ライセンス契約を解除せざるを得ない旨を述べたのに対し、川口は即時、一二月まで待つ必要はなく、日本ウスターとしてこれに同意する気は全くないことをこの場で言明する旨述べ、契約はこの場で解除してもよいという発言を行つた。
ウオルター・ヘスはこの発言を重視し、もはやこれまでであるとして、合弁関係の解消と技術援助契約の終了のための具体的手続に入ることを提案した。
翌九月二日、原告側は合意契約書を起案して川口に提示したところ、川口は解除自体には何ら異議を述べなかつたが、解除後の手続について、被告は従来どおり許諾製品の販売を続けること、今後何らの拘束なく、全世界に販売したいなど契約違反に当たることを一方的に強行する意向を表明した。
これにより、原告と日本ウスターは右二日の時点に本件ライセンス契約を有効に合意解除した。
もつとも、本件ライセンス契約一八条によれば合意解除は書面によるものと定められている。しかし、この趣旨は必らずしも解除に特定の要式を要求したものではなく、当事者の契約終了意思が何らかの形で、ことに書面で、明確にされていることを後日のため要求しているにすぎないと解すべきである。したがつて、双方がそれぞれ第三者に書面をもつて契約終了の趣旨を明確に表明し、または事実として双方が解約を前提とした行動をとつた場合には当該合意解除は有効であると考える。
しかるところ、(イ)原告は昭和五〇年一〇月三日付、被告は同年同月三一日付の各書面(甲第六、第五号証)をもつて広く第三者顧客に対しそれぞれ本件ライセンス契約は終了した旨表明した。また、(ロ)事実としても、原告、被告、日本ウスターはいずれもその後契約終了を前提とした行動をとつている。すなわち、三者の関係は前記九月二日の時点以後全く分裂したまま今日に至つている。ことに、日本ウスターはその後ライセンシーとしての義務を一切履行せず、被告も日本ウスターの下請として同社がロイヤリテイを支払い報告をするための行為を一切していない。
したがつて、前記合意解除はもとより有効である。
四 原告の解除権行使
(1) 日本ウスターが契約四条違反の所為を敢えてしたこと、そこで原告が昭和五〇年七月七日付書簡をもつて日本ウスターに対しその旨を通告し、遅くとも同年末までにこれを是正すべきことを催告要求したことは先に二で主張したとおりである。
しかるところ、日本ウスター、被告側(川口)は前記九月二日の会談で原告に対し右是正はありえない旨明言した。このことは本件契約一九条後段の契約終了効に関する自からの期限の利益を放棄したことを意味する。
そうすると、本件ライセンス契約は右九月二日に終了した(契約一九条)。
(2) かりに右の主張が認められないとしても、原告は念のため昭和五〇年九月二日付テレツクス(甲第一八号証)および同九日付書簡(甲第一七号証)により日本ウスターに前記違反行為(建台豊公司との取引)の中止を求めたが、日本ウスターはその後も之れをやめなかつた。
したがつて、本件契約は右書面到着後三〇日を経過した時点に終了した(契約一九条)。
f 結論
よつて、原告は被告に対し(1)主文1、2項と同旨の製造販売差止め、(2)前記損害金四億六二一九万五三六七円とこれに対する不法行為後である昭和五四年七月二一日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払い、(3)かりに右損害金の支払い請求が認められないときは同額の不当利得金と右遅延損害金同額の附帯利息金の支払いを求める。
第二 被告の妨訴抗弁
1 被告が本件被告装置の製造販売を始めたのは原告主張のとおり昭和三八年五月一五日付同年一〇月二二日発効の原、被告間の旧ライセンス契約に基くところ、右契約一五条には「本契約に関連し、もしくはその違反に関連して、両者間に生起するあらゆる紛争、異議、もしくは異論は、日本国東京にある日本商業仲裁協会の規則に従い、仲裁によつて最終的に解決されるものとする。」との仲裁約定がある。したがつて、原告には日本の司法裁判所に本件紛争の解決を求めうる訴権はない。
よつて、被告は本件訴えの却下を求める。
2 もつとも、右旧契約は形式上は昭和四八年一〇月二一日に期間満了しているが、被告はその後も従来どおり被告装置の製造販売を続けており、原告もこのことを十分知つておりながら(原、被告の役員共通である点参照)、なんらの異議を述べなかつたから、原告は右期間終了後も被告に対し黙示で甲特許権、乙実用新案権に関し通常実施権を付与していたと解される。したがつて、前記仲裁約定も当然本件紛争に適用されるべきである。
かりにそうでないとしても、もともと仲裁約定はその性格上契約の終了の有無に関係なく関連紛争について有効と解すべきである。
第三 被告の本案に関する答弁
a 認否
原告の甲事件に関する請求原因事実中、aの1一、2一およびbの1一、2一、2二(一)は認めるが(ただし、各2一の被告装置の特定は不十分である)、その余の点は否認または争う。
b 抗弁その他の主張
1 原告の差止請求一および二に対して
一 本件ライセンス契約存在に基く抗弁
原告と日本ウスターとの間で本件ライセンス契約が締結されたことは原告主張のとおりである(ただし、第一e1二の(5)の海外テリトリ条項中「アメリカ合衆国を除く全世界に対し、……非独占的に」とある部分の「非独占的」を争う。契約四条によればこの部分も前段の日本国内販売と同様に独占的販売権を有していたと解すべきである。)。
したがつて、被告の被告装置製造販売は右契約に基く適法なものである。
なお、原告は、被告の社業発展は専ら原告に負うかのようにいうが、被告は原告に対し約定どおり一般相場またはそれ以上のロイヤリテイを支払つている。被告の発展はその日本人役員、従業員の努力等に負つている。海外のテリトリ、代理店問題についても改訂された本件ライセンス契約は表面的には日本ウスターの権限を拡げたようにみえるが実質は制限されている(地域的には米国以外のあらゆるところに輸出できるようになつたが、その他の条件によれば現実にはアジア地域に限られてしまう。)。また、被告の日本ウスター設立提案理由が表向きと実際と異なつていたようなことはない。
二 原告の再抗弁に対する応答
原告の主張する本件契約終了の再抗弁を争う。
(1) もともと、本件紛争の最大の原因は、オイルシヨツクにより繊維業界が極端な不振におちいつたため、被告が全く予測しえなかつたような在庫品をかかえたところにある。原告はこの頃から極力被告の販路を制限し、倒産同様に弱体化したうえその経営権を奪取するか、または被告に代る会社を設立して(本件乙事件で明らかにされる被告会社の設立事実参照)日本製品の海外進出を妨げようとしたものであり、本件紛争における非は全体として専ら原告側にある。
(2) 原告の主張する合意解約は原告自身も認めているように契約一八条の要求する書面性を欠く。本件契約はスイス国法に準拠して解釈されることになつているところ(契約一七条)、スイス法によれば、前記のような約定がある場合、口頭の解約合意は当事者を拘束するには不十分であるとされている。
また、ライセンス契約を合意により終了させる場合にはライセンシーの在庫製品、半製品の処置に関する合意が重要な事項であるから、このような点について何らの定めをしていない本件合意解約は効力がない。
(3) さらに、原告主張の台湾代理店問題を理由とする解除権行使は、解除せんがためにあえて画策され強行されたものであつて信義則に反し権利の濫用であるから許されない。(A)そもそも原告側のいうユナイテツド・エクスポーターズは色々と問題のある代理店であつて、被告側であえて原告側に取引をやめるよう助言し、原告も再検討を約していたほどの代理店である。したがつて、日本ウスターが右代理店による取引を拒否したとしても、本件ライセンス契約そのものを終了させるほどの問題ではなかつたのである。これに対し日本ウスターの希望した建台豊公司は従来からの被告代理店であつて信用の厚い豊田通商株式会社の台湾現地法人である。このような場合に、双方不合意のときの代理店指定権が原告にあるからといつて、特段の合理的理由を示すことなく前者を指名するが如きことは許されるものではない。また、原告が指摘する建台豊のオリエンタルニツテイングへの販売問題は本件ライセンス契約成立前の昭和四九年六月以前に発注のあつたもので、ただ業界不況のため実際の取引が延引していたのを実行したにすぎない。そして、このことは原告も十分承知していた。(B)また、先に合意解約の効力について述べたと同一の理由により、在庫品問題について何らの解決をしないままの解除権行使は効力を認めることができない。
三 契約終了後の在庫品処理権限(余後効)
かりに本件ライセンス契約が終了したとしても、被告はその後も当然終了当時在庫していたライセンス製品を処分できる。このことはスイスやそこでしばしば引用される西独の法学者のほとんどが認めるところである(乙第一一、第一二号証)。そして、この場合販売方法の細目は信義則によつて自から決められるところである。
しかるところ、甲事件で問題とされている被告製品はすべて契約終了当時の在庫品である。
2 原告の損害賠償請求に対して
一 被告の本件被告製品販売行為が適法であつたことは1で述べたとおりである。
二 かりにそうでないとしても、原告が甲事件訴訟の追加的変更により損害賠償請求をしたのは昭和五四年七月一九日であるから、その請求中、これより三年前すなわち同五一年七月一八日までの分は時効により消滅しているから、これを援用する。
三 また、損害額は約定の実施料(売上高の三パーセント)相当額と解すべきである(八条)。そして、その額は別紙利益一覧表(1)のB記載のとおり合計三三八六万五七五七円である(販売数量は原告主張のとおりであるが、販売価格は原告の不当な悪宣伝や不景気により原告の主張より低額となつたのが実情である。)。
第四 原告の反論
a 被告の妨訴抗弁に対し
1 被告の主張中、被告が本件被告製品の製造販売を始めたのが原、被告直接締結にかかる旧ライセンス契約に基くこと、右旧契約には被告主張のような仲裁約定があつたこと、被告が旧契約期間満了後も被告製品の製造販売を継続し、原告も事実上これを黙認していたことは認めるが、その余は否認する。
2 しかし、甲事件訴訟は、原告が被告に対し甲特許権、乙実用新案権侵害行為を理由として侵害行為の差止と損害賠償とを請求する訴えであり、その審理対象は被告製品の製造販売が右各権利の技術的範囲に属するか否かであつて、右各請求権が旧契約によつて生ずるものではない。たまたま旧契約で被告製品の製造販売が許諾されていたにすぎない。すなわち、甲事件は「旧契約に関連し、もしくはその違反に関連した」紛争ではない。
また、旧契約はすでに終了している。すなわち、旧契約の期間満了とその更新契約ともいうべき本件契約成立との間に時間的ずれがあり、この間の被告の被告製品製造販売が事実上続けられたのは、あくまでも原告日本ウスター間の本件契約の発効が遅れたためであつて、その発効とともに旧契約は当然に終了しているのである。この場合、被告は基本契約が終了しても仲裁約定はなお適用されると述べており、右の主張は紛争が当該契約に関して生じたものであるときには正当であるが、甲事件の紛争は右に該当しないことは先に述べたとおりである。
b 被告の実体上の抗弁等に対し
争う。
ことに被告の在庫品処分に関する余後効理論は独自のもので従うことができない。すなわち、(A)本件ライセンス契約によると、本契約が終了した時は日本ウスターは直ちに特許を使用することを停止すべき旨が定められている(二〇条)。契約終了後の在庫品販売行為が右に違反することは明白である。(B)一般論としても、契約が終了した場合、契約に基づく権利義務関係が将来に向かつて消滅し、実施権者は契約上の義務である実施料の支払いを免れる反面、以後実施権を喪失し特許を実施する法的根拠を失うこと明らかである。ただし、このような事態を予測した何らかの特約があれば別である。また、一部の学説中には、黙示の合意を根拠に合理的期間、合理的数量の在庫に限定して終了後も在庫品の販売を、実施料の支払いを前提に認めるものがあることは事実である。しかし、この見解は合理的との文言が不明瞭であるばかりでなく、契約当事者の意思、特に実施許諾者の実際の意思を全く無視する机上の論である(甲第二〇号証)。
すなわち、契約終了後も実施権者に販売権を認めることは実施許諾者にとつて極めて不利益となる場合が多い。排他的実施権者はすでに市場を確立しているのに対し、実施許諾者は市場への新たな参入者となり営業上実施権者に対抗することが極めて困難となるし、ほとんど同様の製品が実施権者および実施許諾者とから同時に市場に出され、市場を混乱させ価格の低下等市場を無秩序となす結果を生ずる。現に本件においても原、被告間にダンピング合戦を生ぜしめ、原告は多大の損害を被つていることは如実にこのことを物語つている。